技術以上に考え方ーー初任研現場からの報告(その5)

初任研中学校現場からの報告(その5)

   技術以上に考え方

 初任者もある程度の経験を積んだ先生も、『学び合い』などのアクティブ・ラーニングの考えに基づいた授業は、高度な教育指導の技能や技術が必要と思い込んでいる。これは、「教師は教えられたようにしか教えられない」という、授業観や学習観の変更がなされる前の状態だから起きてくることである。教師教育学に基づいた教員養成課程や教育実習を経てきていない初任者しか見ていないからかもしれないが、彼らは同調圧力に押されたように一様に教師主導の授業を行いたがる。気の利いた先生でも、授業の導入にゲームを取り入れる程度である。ベテランの先生の中途半端にアクティブ・ラーニング的な要素を取り入れた授業を見せられたりすると、なおさら「技量がなくてはできない」という思いを強くするのであろう。

 「教育技術の法則化運動」が華やかなりしころ教員の道に入った私も、「討論の授業」や「批評文を書く授業」は、一つ一つ指導の段階を踏んで、丁寧に説明と指示、発問を組み合わせて行うものだと考えていた。しかし、同世代の教員にはそれを軽々とこなす先生もいた。また、「法則化」とは、全く縁のない先生が、見事な学習者中心の、ほぼ一コマ生徒だけの学習を進める先生もいた。共通しているのは、「生徒を信頼する。」「生徒に任せる。」という姿勢であったのを、ここ数年で気づいた。

 要は、授業(学習)に対する指導観のパラダイム・シフトが前提なのだと思う。

 初任研の最初に1か月ぐらいで、「教師のリフレクション」のグループワークを修正したものを使うことで、アクティブ・ラーニングの授業へ向けた概念形成を図る。(本年度も含めて、5人に試みているが、初任者の特性により、速い遅いの違いはあっても、成功しているといえる。)

 この新しい授業の概念の定着は、ALACTサイクルに基づいた、「省察のための質問」を、初任者自身の授業の振り返りに使えるように支援したことが大きい。

 この「質問」を自らに課すことで、昨年から本年にかけての初任者には、2か月経過した時点で、次のような振り返りの傾向が出てきている。

1 生徒を信じること

 2 学習集団をつくる働きかけの必要

 3 教えることを我慢することの大切さ

1 については、「説明」や「指示」「発問」に代表される教師の指導言を、少なくしていこうという実践の振り返りから生まれてくる。

2 これは、過去にも述べたが、「気になる生徒への働きかけ」は、その集団の人間関係を変えていくことが必要なのだという省察である。

3 これは、生徒が学習への集中しているときの支援の在り方の省察から出てきた。

 授業の技術的な「改善」ではなく、学習や生徒の見方、考え方の変革だと私は思っている。